MLOpsで銀行業務へのAI導入を促進
by Canonical on 15 August 2023

人工知能(AI)と機械学習(ML)は、金融セクターに急速に浸透しています。金融サービスプロバイダーとの対話(チャットボットなど)を含め、銀行業務におけるAIは顧客の体験に大きな影響を与えています。銀行は、AI/MLを利用して大量の融資申し込みを処理し、審査手続きを改善する方法を模索しています。AI/ML技術は金融機関の業務も変革し、処理の自動化、予測分析を使用した製品ラインナップの改善、有効性の高いリスク/詐欺管理や規制コンプライアンスなどにより多大なコストを節約しています。
AI/MLは銀行や金融機関に多くのチャンスをもたらす一方、大規模に技術を導入する際には、データのクオリティ、関連規制や規格へのコンプライアンス、AI/MLモデルの説明可能性、偏見、公平性、AI/MLモデルのガバナンスと管理など、複数の困難に直面します。
MLOpsの登場
MLOps(機械学習運用)は、機械学習モデルの計画的なライフサイクル管理により、金融機関が銀行業務にAIを導入する際の課題のいくつかを解決します。
MLOpsは、すでにソフトウェアエンジニアリングに普及しているDevOpsに似たアプローチです。DevOpsと同様、MLOpsも、開発者、システム管理者、データサイエンティストなど、プロセスに携わるさまざまな関係者のコラボレーションに重点を置きます。これには、データ準備、モデルの作成、モデルの運用、モデルのモニタリングの標準的な手順が含まれます。MLOpsは一般に、コードのクオリティ向上、パッチ/アップグレード/更新の速やかな適用のほか、効率的なリリースによる銀行業務用AIの信頼性と拡張性の向上につながります。
銀行によるMLOpsの活用
MLOpsは、以下に紹介するように、銀行業務におけるさまざまなAIの用途に対応します。
詐欺の検出
詐欺は、金融機関にとって根強く深刻な問題であり、損失を抑えて顧客を保護するには、できるだけ早く詐欺を検出することが重要です。推定によれば、Eコマースの決済詐欺による2022年の被害額は世界で410億米ドルにのぼります。さらに2023年には480億米ドルに増加すると予想されています。米国連邦取引委員会(FTC)のデータによれば、2022年に消費者が報告した詐欺被害額は約88億米ドルです。
銀行や金融機関は、大量のデータを自動的に分析してパターンを特定し、詐欺の疑いのある行為をリアルタイムで検出するモデルを開発し、運用しています。これらのモデルは、取引データ、顧客情報、その他のデータを分析し、詐欺を特定します。
詐欺検出モデルの開発と運用には、データの準備、モデルの開発、モデルの運用開始、モデルのモニタリングなど複数の段階があります。MLOpsは以下のように、各段階を有効かつ効率的に進めるのに役立ちます。
- 銀行のデータサイエンス担当者が、モデルで使用するデータの収集、クリーニング、準備を自動化しやすくなる。
- モデルが一貫した再現可能な方法で作成され、データ分析、機能選択、モデルトレーニングのベストプラクティスを採用していることを、銀行のデータサイエンス担当者が確認できる。
- AI/MLモデルを実運用環境に移行する際、コンテナ化、オーケストレーション、モニタリングのベストプラクティスを使用し、モデルを拡張可能で信頼性の高い形で確実に運用できる。
- 銀行のAI/MLチームが運用中のモデルを常に観察し、問題を検出するとともに、必要な修正を加えてモデルのパフォーマンスを高めることができる。
パーソナリゼーションと顧客の分類
AIに多大な投資をしているにもかかわらず、銀行はまだ機械学習(ML)モデルの予測情報を顧客のパーソナリゼーションプログラムの管理やキャンペーンの紹介に活用できていません。銀行による大規模なパーソナリゼーションを妨げる要因には、顧客データに一貫性がない、MLモデルの適用範囲が狭い、用途が1回きり、モデルの複製が難しい、知識共有が少ないなどが挙げられます。
すべての経路で接客のパーソナライズを推進するには、総合的なMLモデル群を開発する必要があります。大半のモデルは、関連のない個別の状況で、抵当の利用や口座開設を促進するなど、製品に重点を置いた短期的な目的でトレーニングされています。顧客のライフタイム価値を高める方法を考案したり、取得した情報をもとに接客を計画することは考えられていません。MLOpsは、常にデータ分析、機能の選択、モデルトレーニングのベストプラクティスを使用してモデルを開発するのに役立ちます。
多くの場合、MLモデルやキャンペーン管理システムには互いを結ぶフィードバックループがないため、銀行はMLモデルで得た予測情報をキャンペーンの運営や意思決定に応用することができていません。
MLOpsは、データサイエンティストやさまざまな運用チームの協力を促進するとともに、銀行が意思決定やパーソナリゼーションプログラムの作成に予測情報を活用するのを助けます。また銀行は、MLOpsを応用して総合的なテクノロジースタックを構築し、情報ループのオーケストレーションによって企業データとMLモデルを結び、結果をキャンペーンに反映することができます。
信用リスク評価
個人のリスクは複数の要因で構成されるため、信用リスクは銀行にとって常に難しい問題です。信用リスク評価には、借り手の信用履歴、決算書類、その他の関連データの分析および債務を返済する能力の判断が含まれます。
借り手が企業の場合、プロセスはさらに複雑です。データに複数の変数や期間が含まれ、その集計と分析によってリスクの全体像を把握する必要があるからです。
AI/MLはこの信用リスク評価を変革します。MLモデルは継続的にデータを入力し、情報を抽出し、それを使って新しいデータセットから予測情報を引き出します。この反復的なトレーニングにより、MLモデルは徐々に正確性を増します。
それでもMLモデルにはまだ仮定が含まれます。ごちゃごちゃした過去の財務データの分析は特に難しく、モデルのパフォーマンスが下がる可能性があります。MLモデルは従来の分析より外れ値に敏感なため、データの過学習のリスクもあります。
フィーチャーエンジニアリングとは、MLモデルに使用するフィーチャー(特徴量)を選び、手を加えることです。MLOpsを利用すれば、銀行や金融機関はこの作業を自動化し、信用リスク評価における重要性に基づいてフィーチャーを選ぶことができます。
AI/MLモデルがトレーニングデータに存在する偏見や先入観を意図せずに反映し、不公正な、または差別的な結果を出すことがあります。これは金融サービス業界で特に慎重に扱うべき問題です。偏見のあるモデルに基づいた決定が、金銭的、社会的に大きな影響を与える場合があるからです。偏見や非常識な行動をモデル化しないよう制限をかけることも、一部のML技術にとっては厄介な作業です。
MLOpsは、機械学習における偏見を検出および緩和するツールや技術を銀行や金融機関のデータサイエンティストに提供することで、偏見や公平性の問題にも対応します。MLOpsは、幅広い代表的なデータセットを使用したモデルの作成およびテストにも貢献します。
また、MLモデルの分解は複雑なため、モデルの機能を詳細に説明する必要がある場合には問題が生じます。このAI/MLのブラックボックス的な性質が、規制対象となる大規模な金融機関において特に導入がためらわれる理由かもしれません。MLOpsは、モデルの結果を解釈あるいは視覚化するツールや手法で、モデルの説明可能性を高めます。MLOpsの機能やツールは、銀行のAI/MLチームがモデルの作成、テスト、運用に関して透明性を提供し、モデルの行動を理解および説明しやすくする上でも役立ちます。
セキュアなオープンソースMLOpsプラットフォームの採用
金融サービス向けのMLOpsにおいてオープンソースソフトウェアの重要性が増しています。オープンソースのMLOpsプラットフォームは、MLOpsのプロセスやツールをニーズに合わせてカスタマイズする柔軟性を金融機関に提供します。
オープンソースソフトウェアは、プロプライエタリのソフトウェアよりはるかにコスト効果が高く、革新の最先端でもあります。大勢の開発者が活発にソフトウェアの機能改善や拡張に常に取り組んでいるからです。オープンソースソフトウェアにより銀行や金融機関はMLOpsの最新機能を得ることができます。
金融機関では、オープンソースソフトウェアとそのすべての依存ファイルを安全に管理することが必須です。このことはオープンソースのMLOpsプラットフォームにも当てはまります。銀行や金融機関が、コンプライアンス、セキュリティ、またはサポートの要件を満たしながらAI/MLを活用したインテリジェントアプリケーションを構築および保守するには、セキュリティの高いオープンソースソフトウェアが必要です。Canonicalは、セキュリティの高いオープンソースMLOpsプラットフォームでAI/MLを大規模に運用したい銀行や金融機関のためにCharmed KubeflowとUbuntu Proを提供しています。
写真提供:Clarisse Croset、Unsplashより
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